・あの小津でさえ(黒髪の乙女と交際するなどと言う)有意義なキャンパスライフを送っていたというのに、私ときたら…と、絶望した「私」が半引き篭もりのクジを引く回。
・大学一回生の春に、どのサークルへの所属も選ばなかった、つまり積極的な外界との接触を絶ったことから、これまで「私」の周囲を賑やかしていた面々は一方的な顔見知り状態で交流はゼロ、運命の黒い糸で結ばれているはずの小津ですら関わりを持たない世界とあって、中々に孤独な世界。「私」には、それでも構わないと思っている節があったけれど、それはただの強がりだったのだと、延々と続く四畳半世界にひとり閉じ込められて気づく展開に。
・過去の選択を悔いるあまりに迷いこんだ四畳半世界からの脱出のキーとなったのは、老婆が「契機」と読んでいたモチグマ=明石さんと新たな関係を築こうとする意思=新しい選択、というクライマックスの展開は良かった。のだけど、合わせ鏡よろしくモチグマがずらっとぶら下がっている図がモチグマの集団首吊りに見えて地味に怖かったり、明石さんを求めて外界との接点を取り戻したはずなのに、いの一番に駆けつけたのが、女装した小津の前、しかも全裸、という展開に笑ってしまったりでそれどころでは無かった。何というシュールな笑い。
・小津の顔が、以前一度だけ見せた非妖怪フェイスだったのは、「私」が四畳半世界を旅したことで悟った人間の多面性を表現しているのかな。ある一面から見れば、迷惑千万な男ではあるけれど、別の一面では紛れもない「私」の親友である、みたいな。これまでの可能性世界ではことごとくその一面を見ることはできなかったけれど、この世界でようやくそれを手に入れた、みたいな。四畳半神話大系とは、「私」が過去の選択に囚われる愚かさを悟るとともに、親友としての小津を見つける物語、すなわち明石さんエンドに辿り着くのが目的ではなく、小津エンドに辿り着くための物語だったんだよ!な、何だってー?
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